こころ惹かれる、香りがする。
ほんのわずかな香り、それは昔の自分を思い出す香り。
あまりにも、わずかな香りでしたので、その香りを追いかけてしまいました。
新幹線の一つ離れた席のか紺色のドレスを着た女性からです。
普段なんともないのですが、このときは違っていました。
その香りに気づいた瞬間、脳裏には若い頃の故郷の情景が浮かんできたのです。
低い灰色の空に、汗を拭き去る風が吹いている。
それは、若い頃の情景!
生きる事に、悩み抜いた十代の頃です。その香りは、自然の香りではなく人口的に造られたもので、少し緊張感がある。
それは、自分にとっては気品と気高さを感じさせる。
その頃、部屋にあった化粧水の香りに似ているが、確かに違う。
なぜだ。
こんな香りで、昔の自分を思い出してしまうなんて。

香水は、使うほどにその人に馴染んで、その人にしかない個性を引き出すと言われていますが、そんなことは、どうでも良い。その香りが気になってしまいました。
もしかしたら、その香りに気づいたのは私だけかも知れない。
そもそも、思いを巡らすことなど私の他に、誰もいないだろう。
なぜ、私は故郷をそれも十代の頃を思い出したのだろうか。
わからない。
しかし、これだけは言える。
その香りは、私をその瞬間だけでも故郷へ引き戻していたのです。

